南越谷法律事務所の弁護士小池智康です。
今回のコラムのテーマは、未払い給与の立替払い制度についてです。
会社が倒産状態になった場合、従業員の給与が未払いになっている、ということは珍しくありません。
その後、会社が破産申立をした場合であれば、破産法上、未払いの給与は財団債権・優先的破産債権として、一般の債権に優先して支払われるようになっています。
しかし、一般の債権に優先して支払われる、というのも破産申立をした会社に支払いに充てる資金がある、ということが前提になります。したがって、会社に資金がなければ未払い給与といえども結局支払いを受けられないということになってしまいます。
このような事態を避けるため、独立行政法人労働者健康福祉機構が未払賃金立替払制度を実施しています。
この制度は、要するに企業が倒産したことで賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、その一部を立替払いする制度です。
立替払いを受けるには、次のような要件が必要とされています。
1、使用者が
(1)1年以上事業を継続していたこと
(2)倒産したこと(法律上の倒産・事実上の倒産の両者を含みます)
2、労働者が、倒産について裁判所に申立て等(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6ヶ月前の日から2年の 間に退職したものであること
なお、立替払いの対象になる金額は未払賃金の8割であり(ただし、一定の上限あり)、賞与は立替払いの対象になりません。
このように未払い賃金の立替払い制度は、一定の制約があるものの、原則未払賃金の8割を立て替えてくれることから非常に有効な制度だと思いますが、注意すべき点もあります。
それは、、労働者が、倒産について裁判所に申立て等(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6ヶ月前の日から2年の間に退職したものであること、という要件です。
この要件からすると、会社を解雇又は退職してから6ヶ月を超えた労働者については立替払いの対象にならないということを意味します。
例えば、会社の業績が悪化して、未払賃金が発生した状態で従業員を解雇し、その後、会社の存続を模索したものの、1年後に破産を申し立てたという事案では、未払い賃金の立替払い制度を利用できません。
小規模な会社では、経営状態が悪化して従業員を解雇したのち、未払賃金を解消できないまま、会社を放置するということはよくあることです。
また、従業員を解雇したのち、別の事業に着手したものの、未払賃金を解消できず、結局破産するということも多々あります。
会社が経営再建に取り組むことは大切ですが、合理的な再建の見通しがたたない状況で会社の清算を遅らせたために、未払賃金の立替を受けるチャンスを奪うことは適切ではないと思います。
給与の未払いが発生したときは、
未払賃金立替払制度があること
立替払制度は退職後6ヶ月以内に破産申立又は労働基準監督署に認定申請をしなければならない
ということにご注意いただきたいな、と思う次第です。