南越谷法律事務所の弁護士小池智康です。
埼玉県越谷市を拠点として、越谷市、春日部市、草加市、さいたま市、川口市、足立区等を対象に情報提供することを目的とするこのコラムですが、今回のテーマは、遺産分割協議における不動産評価の注意点についてです。
相続が発生し、遺産分割をする際、その対象に不動産が含まれているというケースはよくあります(むしろ、現場の感覚としては、不動産が含まれていないと珍しいな、という感じです)。
この遺産に含まれてる不動産の価格をどのようにして評価するかということが相続人間の公平性を確保するために重要な問題になることがあります。
例えば、遺産が、預金1億円、不動産(土地)、相続人は、被相続人の息子二人というケースを想定してみます。
この場合、預金を5000万円ずつ取得し、不動産については持ち分50%ずつという分割をするのであれば特に不動産の評価は問題になりません。
しかし、相続人間で取得する割合は50%ずつと合意しつつ、不動産は一方の相続にが単独で取得するという場合には問題がでてきます。
この場合、仮に不動産の価格を1億円と評価すれば、不動産を取得した相続人は預金を取得できませんが、不動産を8000万円と評価した場合には、不動産に加えて1000万円の預金を取得できることになります。
そして、この問題をややこしくしているのが、固定資産評価額と路線価の存在です。
固定資産評価額や路線価は、簡易に不動産の評価を確認する基準として裁判実務でも頻繁に利用されているのですが、これらの評価額は、いわゆる実勢価格よりも低く設定されています(実勢価格を基準として、固定資産評価額が60~70%、路線価が70~80%と言われています)。
そうすると、仮に、先程のケースの不動産を路線価を利用して8000万円と評価した場合、不動産を取得する相続人は預金1000円を取得することができる、ということになります。これは、実勢価格を基準にした場合は預金を取得することができないことからすると公平性の点で問題があります。
また、相続税の申告を税理士に依頼した際に算定してもらった評価額を流用して遺産分割協議を行う場合にも注意が必要です。
相続税の申告においては、不動産の評価額に関する特例が存在しており(例えば、小規模宅地等の特例)、この特例の適用を受けると当該不動産の評価額は、大幅に減額され、実勢価格とは大きく乖離した評価になります。
しかし、現実には、小規模宅地等の特例を適用した評価額をベースに遺産分割案(実家の土地建物を長男が単独で取得し、この土地建物について小規模宅地の特例の適用を受けるなど)が提案されているケースが多々あります。
これでは、後日、遺産分割が公平でなかったことが発覚し、かえって親族間にしこりを残す結果になってしまいます。
そもそも、相続税申告と遺産分割協議は、目的がまったくことなるのですから、前者の評価額を後者にそのまま流用することに無理があるわけです。
本来であれば、不動産鑑定士に評価額をだしてもらうのがベストですが、費用負担の問題があることから、固定資産評価や路線価を利用せざるを得ません。
遺産分割協議をする方には、不動産の評価額を決めるために固定資産評価・路線価、相続税評価を安易に利用することには問題がある、ということを最低限心に留めておいていただきたいと思う次第です。