南越谷法律事務所の弁護士小池智康です。
越谷市、春日部市、草加市、川口市、さいたま市、足立区等を対象に情報提供をすることを目的としたこのコラムですが、今回は、遺産分割協議と相続債務についてです。
相続が発生した場合、遺産には、預貯金・不動産などの積極財産に加え、負債などの消極財産が含まれていることがあります。
例えば、被相続人が住宅ローンを組んでいた場合、事業を行っていた場合、相続税対策として借金をしてアパート・マンションを建築していた場合などがあります。
これらのうち、住宅ローンは、通常団体信用保険に加入しているので問題ありませんが、事業や相続税対策で借金がある場合は深刻な問題に発展することがあります。
判例によれば、相続債務は、相続発生と同時に法定相続分で相続人に帰属するとされておりますが、相続人間で法定相続分とことなる債務の承継割合を合意することも可能です。
ここで注意すべきことは、相続人間で債務の承継割合について合意したところで、この合意の効力を債権者に対抗する(主張)することはできないということです。
要するに、債権者は、相続人間の合意にかかわらず、法定相続分にしたがって各相続人に請求することができるという結論になります(なお、債権者は相続人間の合意を承認して負債を承継した相続人に請求することも可能です)。
例えば、資産が6億円(不動産含む)、負債が4億5000万円、相続人が被相続人の子供3人(長男、次男、長女)の場合で、資産・負債の全てを長男が相続するという内容の遺産分割協議が成立したとしても、論理的には、債権者は、次男・長女それぞれに対して1億5000万円を請求できるということになります。
もっとも、このような事態は、現実にはあまり発生していません。通常は、債権者は遺産分割協議の内容に沿って長男に請求し、弁済を受け、また、万が一の場合にも長男が相続した不動産に抵当権が設定されているため、不動産の売却・競売代金から債権を回収するからです。
しかし、悲しいことに、弁護士が取り扱う案件というのは、このような通常のルートからそれてしまっているのがむしろ通常にのため、相続人が思いもよらない事態に巻き込まれている事案にお目にかかります。
上記の事例との関係でいうと、債務を承継した相続人が自己破産などにより債務の支払ができなくなり、債権者から他の相続人に対し、法定相続分による請求がなされている場合です。
借入金が不動産の建築費用等であれば、当該不動産を売却して返済に充てることにより、借入金を圧縮することが可能ですが、事情により不動産が売れない場合、バブル真っ盛りの時代に不動産を建築し、現時点では地価が大幅に下落しているため売却しても多額の債務が残る場合などは深刻です。
相続人としては、相続人間の合意に沿って債権者が弁済を受けていた以上、いまさら法定相続分に基づいて請求をするというのは不当だとの主張をしたいところですが、債権者が相続人間の債務負担の合意を承認をしたとしても、他の相続人の債務を免責する意思まで認めることは困難であると思われます。そうすると、理屈では、債権者による請求が可能になってしまいます。
では、このような場合相続人としては、どうしたらいいのでしょうか。今回のケースは、そもそも、遺産分割時の債務の取扱いが不十分だったことが原因です。
対処法としては、
①遺産分割で長男が債務を承継すると決まった際に債権者と交渉し、他の相続人の債務を免責してもらう。
②長男が相続した不動産を担保に借り入れをして、相続債務を完済する。
③(熟慮期間が経過しているため認められるかは不透明ですが)次男・長女が相続放棄の申述をする。
という方法がありえます。
遺産分割協議は、事前の綿密な調査・検討が大切です。
相続で予想外の事態に遭遇しないためにも、相続債務には慎重に対処していただきたいと考える次第です。